健康になりたければ胃酸を強くしろ!

   

胃酸は敵それとも味方?

胃酸と聞いて、出過ぎると逆流性食道炎や胃もたれなどを引き起こす、悪いものだという印象を持っている人は多いのではないかと思います。しかし、それは大きな誤解です。胃酸は、健康を維持する上で、とても大切な役目を担っています。

一般的に行われている対処法

消化不良、胸焼け、胃のむかつきなどの症状を訴えて医療機関にかかり、「胃酸の過剰分泌による、食道や胃の内膜の軽い炎症または逆流性食道炎」の診断を受けたという話はよく聞きます。大抵の場合、胃酸の分泌を抑制または中和する薬が処方され、それらによって症状は落ち着きます。しかし、薬で症状の根本的原因が解決したわけではありません。実際、よくなったと思って薬をやめても、それまでと同じ食生活をしていると、また同じ症状が現れます。それでは、根本的な原因は一体何なんでしょうか?

胃酸分泌のピークは20代

そもそも胃酸の分泌は20代にピークに達し、その後は減少傾向に転じます。胃酸が弱くなる理由は加齢以外にも、慢性タンパク質不足、ピロリ菌感染、甲状腺機能低下症などいろいろな理由が考えられますが、基本的に40代以降の人に胃酸の過剰分泌が起きることは、生理学的に普通は考えられません。一般的に“胃酸過多”と呼ばれるものの大半は、胃酸の出過ぎではなく、実は胃酸の酸度が弱くなっていることが原因です。

そこで出てくるのは、胃酸の酸度が弱いことが原因であるならば、薬によって胃酸を中和もしくは分泌を抑制することで、なぜ症状が改善するのかという素朴な疑問です。

もともと胃の内膜は、胃酸のような強い酸に耐えられるようにできており、強い胃酸を分泌し、食べ物の消化を促します。しかし、胃酸の酸度が弱いと、消化が中途半端に終わるだけでなく、無駄に分泌された酸度の弱い胃酸が食道の方へ押し上げられてしまいます。

胃の粘膜とは違い、食道の粘膜は酸に耐えるようにできていないので、胃から逆流した弱い酸の刺激によって炎症を起こしてしまいます。ストレスや感染などが原因で胃の粘膜が弱っているときは、薬によって胃酸を一時的に抑え、粘膜の修復を促すことは必要です。しかし、長期的に胃酸を抑えると、あらゆる健康問題が引き起こされる可能性があります。長期服用の危険性は、すべての制酸薬の説明書に注意事項として記載されています。

胃酸が弱くなることの弊害

タンパク質の消化が著しく低下する

胃粘膜から分泌されるペプシノゲンは、胃酸の刺激によって、タンパク質を分解する酵素のペプシンに変わります。胃酸の酸度が弱っていたり、胃酸の分泌を薬によって抑制したりすると、ペプシンの量も同時に減少し、タンパク質の消化が不完全になります。一部のタンパク質は、すい臓からの酵素によって小腸で分解されますが、このシステムに頼りすぎると、やがてすい臓に負担がかかってしまいます。

体の大半は、タンパク質でできています。そのため、タンパク質の消化不良、つまりタンパク質の不足が体におよぼす影響は計り知れません。臓器、筋肉、関節、髪の毛、肌、つめ、粘膜、ホルモン、神経伝達物質なども主にタンパク質によって形成されており、タンパク質の供給が減少するとそれらの質や機能が低下してしまいます。肉、魚、マメ類などを日常的に食べていても、胃酸の分泌が十分でなければ消化力が低下し、タンパク質不足に陥る可能性があります。

細菌やウイルスの攻撃を受けやすくなる

胃酸は、食べ物に含まれる細菌やウイルスを殺す役目があります。実際、胃酸の分泌を抑制する薬によって、肺炎などの感染症のリスクが上がります。

ビタミンとミネラルの吸収が妨げられる

特にカルシウム、マグネシウム、鉄分、、クロム、ビタミンB12などの吸収が阻害されます。ビタミンやミネラルの吸収には酸性の環境が必要ですが、胃酸の酸度が低い、あるいは薬によって分泌を抑制している状態では、酸性の環境を作ることができません。

ビタミンB12と鉄分が不足すると貧血を起こし、慢性疲労、うつ、認知症が引き起こされる可能性があります。また、カルシウム、マグネシウムの不足は、筋肉の痛み、イライラ、不眠症、骨折、骨粗しょう症の原因になります。

脂質と炭水化物の消化が間接的に低下する

胃酸の分泌が正常な場合は、胃酸が食べ物と混ざることによって本格的な消化が始まります。胃の中では特にタンパク質の消化が行われ、脂質や炭水化物は、小腸で胆汁とすい臓から分泌される消化酵素によって消化が始まります。

ここで大事なのは、胆汁とすい臓からの消化酵素は、胃から流れてくる胃酸の刺激によって分泌されるということです。胃酸を含んだ消化途中の食べ物は酸度が強く、そのままでは小腸の壁を傷つけてしまうので、酸度を中和するためにアルカリ性の胆汁とすい臓からの消化酵素が必要になるのです。しかし、強い胃酸が十分に分泌されていなければ、胆汁やすい臓からの消化酵素は出番がありません。その結果、分泌量が減少し、脂質と炭水化物の消化吸収が同時に低下する悪循環に陥ります。

胃酸の酸度の低下や分泌の抑制が、健康維持をいかに妨げるかが分かっていただけたと思います。個人差はありますが、胃酸の分泌量は40代で20代の約半分に減ると言われています。高齢者の場合、2~3割の人で胃酸分泌の著しい減少が確認されています

胃酸の分泌が減少することによって、胸焼けや、消化不良などが生じていることは、既に述べましたが、これらの症状は非常に不快なものであります。しかし、長期的に薬によって胃酸を抑制し続けることは望ましくないことも、ご理解いただけたと思います。

対策法

それでは、食べ物の消化・吸収を促しつつ胸焼けや胃の不快感を根本的に解決するには、どうすればいいのでしょうか。

食べすぎを控え、よく噛んでたべる

当たり前と思われるかもしれませんが、これを実際に実行している方は非常に少なく、胃腸が弱い人に限って「早食いで大食い」というケースが多いようです。個人の消化能力を超えた量を食べれば、当然のように消化器官は拒絶反応を起こします。

落ち着いた環境で食事をすることも重要です。消化の働きは、副交感神経が優位になっている状態、つまりリラックスしている時に最も活発になります。イライラしていたり、怒っていたり、仕事をしたりしながら食事をすると、消化不良を起こしやすくなります。

食べすぎを控え、よく噛み、ゆったりとリラックスして食べることを徹底して行うだけで、消化の問題の多くは解決します。

 症状を引き起こす・引き金となる生活習慣や食べ物を避ける

症状の原因や引き金は人によって違いますが、よくあるのは、寝る前に食べ過ぎること、喫煙、飲酒、コーヒー、小麦製品、乳製品、辛い食べ物、トマトベースの食べ物などです。これらの食べ物にアレルギー反応を起こし、症状が出ているケースもあります。

特に小麦や乳製品は、アレルギーがあってもそれに気づかず、食べ続けている人が非常に多くみられます。それらを避けることによって、胃腸の働きだけではなく、ほかの健康問題も同時に解決することは珍しくありません。

消化を促す栄養素、またはサプリメントを摂る

消化酵素は、消化の働きを改善する上で一番基本となるものです。麹菌由来で作られているものが最も有効です。食前に消化酵素を摂ることによって、食べ物の消化吸収が促されます。

消化エンザイムとともにべテインHCLというテンサイから抽出した物質をとることもお薦めします。べテインHCLは胃の中の酸度を上げるのに有効なサプリメントです。(べテインHCLには肝臓を助ける働きもあります。)べテインHCLサプリメントはほとんどの場合豚の胃から抽出したペプシン(たんぱく質分解エンザイム)を配合してありますので、さらにたんぱく質の消化を促します。

また食後に酢を小さじ1杯、少量の水で薄めて飲むこともおすすめします。食前ではなく、食後に行ってください。黒酢、もしくはリンゴ酢が理想です。胃に潰瘍がある場合は、胃腸の内膜を刺激する可能性があるので、避けたほうがよいでしょう。逆に酢を飲んでも不快感や痛みが出ない場合は、食後に酢を飲むことによって、胃の中の酸度が上がり、消化を促します。

胃腸の内膜が弱くなり痛みが出やすくなっている場合は、胃の粘膜を保護して強くするハーブや漢方がいいでしょう。私のクリニックで患者さんによくお勧めするのは、マシュマロールート、スリップリーエルム、パパイヤリーフなどです。

注:胃酸の酸度を改善する治療は、必ず治療者の指示の下で行ってください。胆石がある場合や胆汁の流れが極めて悪い場合、胃酸を急激に強めると、胆汁の流れが促され、胆管を詰まらせる可能性があります。

プロバイオティックスを摂る

プロバイオティックスとは、腸内の善玉細菌です。腸内細菌のバランスが崩れることによって消化機能が低下することは、よくあります。おならが臭かったり、慢性の下痢や便秘があったりする場合は、食生活を正した上で、プロバイオティックスを摂ることが大変有効です。

これらのことを行っても症状の改善が見られない場合は、不調の原因について、もう少し深く検査をする必要があります。

例えば、ピロリ菌が原因となっていることもありますし、カンジダ菌や、寄生虫などが原因である可能性もあります。

<注>

胃酸の分泌が減少していても、胸焼けや胃もたれなどの症状が必ずしも起きるわけではありません。そのため、これらの症状がなくても、胃酸の分泌が十分であると結論付けることはできません。むしろ、健康問題を抱えている方や年配の方は、おおむね胃酸分泌が弱く、消化吸収が低下していることが多いと思います。

胃酸、ビタミンB12、認知症の関係

ビタミンB12が、特に高齢者の約半数で不足がちであるというレポートがアメリカで発表されました。日本人の場合、最低限の摂取はできていると報告されていますが、摂取量と、それが体内に吸収され、活用されているかは別問題です。実際、ビタミンB12不足が関与する健康問題を患う人が数多くおられることから考えても、この重要なビタミンが不足している日本人は、意外に多いのではないかと思います。

ビタミンB12不足が、慢性疲労、睡眠障害、記憶障害、免疫力低下、悪性貧血、巨赤芽球貧血、手足のしびれなどを引き起こすことは以前からわかっていましたが、近年の研究で、認知症の大きな原因でもあることが明らかになってきました。

アメリカでは、65歳以上の8人に1人、85歳以上では約半分の人が認知症を発症しています。

この数字は日本を上回るものですが、日本人の発症率も年々上昇しており、2010年時点で65歳以上は約10人に1人、85歳以上では約4人に1人となっており、向こう10年で劇的に悪化すると推測されています。

残念ながら、認知症の有効な治療法はいまだ確立されていません。アメリカでは認知症の研究が日々行われており、多くの興味深い研究結果が発表されています。2010年には、ビタミンB12、B6、葉酸を与えた結果、認知症患者の脳組織の萎縮と認知機能低下の進行が減速したという研究報告が話題を集めました。それらの栄養素は、精白された穀物や砂糖を多く摂取するという、現代日本人の典型的な食事によって不足しがちであることは明らかです。

中でも動物性食品に含まれるビタミンB12は、肉の消化吸収が適切に行えていないときや、胃酸の分泌が弱っているときに摂取が特に困難です。肉に含まれるビタミンB12は、胃酸の助けがあってはじめて肉から引き出され、体内に取り込まれるからです。

胃酸の分泌力が加齢ともに弱くなることを考えれば、高齢者にビタミンB12不足が起きていても不思議ではありません。また、若い世代でも、消化力が弱っていたり、長期に渡って胃酸を薬によって抑制したりしている場合は、ビタミンB12不足が起きている可能性があります。

そのような場合は、動物性タンパク質の消化を促すため、消化能力を改善するとともに、舌下から吸収させるタイプのビタミンB12(メチルコバラミンがよい)を摂ることも有効です。

糖尿病を患う方のアルツハイマー病型認知症リスクは、糖尿病でない方の2倍と高いことが報告されています(糖尿病の章を参照)。皮肉なことに、世界で一番使われているメトホルミンという糖尿病治療薬はビタミンB12 の吸収を妨げることが知られており、問題を悪化させる一因と考えられます。

 - 消化の働きと健康