先月は、風邪をひかないというメカニズムについて解説しました。しかし、いくら生活習慣を整え、免疫の強化に努めても、仕事や家族の都合や、人間関係などで、自分ではコントロールできない事情が重なって、免疫力が下がり風邪をひいてしまう、なんていうことは誰にでもあることです。特に12月は日本でもアメリカでも、会食や夜更かしする機会が多くなり、体調を崩しがちになる時期ですよね。
「頭痛には鎮痛剤、熱には解熱剤、咳には咳止め」といった対処法しか知らずに何十年も生活して来た方の多くは、「体の不調は薬無しでは治らない」と信じ込んでしまっているようですが、実は不調の9割以上の問題は、薬は不要なことはもちろん、生活を整えることさえできれば、自然治癒力による根治が可能です。今月は、風邪をひいてしまった場合にできる一般的な対処法をご紹介します。
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①体に負担になるものを取り除く
わざわざ言うまでもないことですが、風邪をひいてしまった時にまず一番重要になるのが、休養です。休むわけにはいかないから、と薬で症状を誤魔化しながらスケジュールをこなそうとすると、風邪をこじらせたり長引かせたりしてしまい、結果的にはかえって長く休むことになりかねません。思い切ってキャンセルできる予定はキャンセルし、睡眠と休養のための時間を確保し、早めに治す努力をすることがベストです。
また、体が持つリソースをたくさん体の回復に回せるようにするためには、無駄にそれらを浪費してしまう活動を控えなければなりません。ここで重要になるのが、食べる物、飲む物です。消化は、たくさんのエネルギーや栄養素を必要とするので、胃腸に負担をかける食べ物や飲み物を控えることは、免疫力をサポートし、速やかな回復を促します。具体的には、乳製品、小麦製品、甘い物、加工食品(家ではできない加工がされた食べ物)など、消化が難しい食べ物は完全に除去します。熱がある時などに食欲がなくなるのは、体は今それどころではない、ということなので、無理に食べないことも大切です。
現代人の多くは、何か体の不調を感じると、薬などの何らかの対処法を「足す」ことだけで、現状を維持しながらその問題を解決しようとする傾向にあります。しかし多くの体の問題は、単純に何か一つの物が欠乏することで起きるわけではありませんし、ましてや「鎮痛剤不足」や「咳止め不足」が原因ではありません。最も有効な解決策は何かを「足す」のではなく、不調の一番の原因になったものを「取り除く」ことです。つまり、体に負担になる物をできるだけたくさん省くことで、体全体のキャパを上げ、感染に対処できる態勢を整えることが大切なのです。
②体が必要としているものを入れる
高熱があって食欲が無い時は、無理して飲み食いしないのが鉄則ですが、水分だけは補っておく必要があります。しかし、ただ水分だけをたくさん摂り続けると、今度は電解質不足になってしまうので、塩分も一緒に補給しなければなりません。そこでおススメなのが、自家製骨スープです。手に入るのであれば牛や豚の骨でも良いですし、お肉屋さんに行けば鶏肉の背骨などももらえるかもしれません。どこでも簡単に買える鶏の手羽や、骨付きのもも肉でもできますし、魚の骨でもできます。何らかの骨を、水から弱火で数時間~24時間煮出し、塩で味をつけるだけで完成です。天然塩であれば、美味しいと感じる濃さにしっかり味をつけて構いません。牛や豚の場合は、一度オーブンで焼いてから煮た方が美味しくなります。野菜を入れれば更に栄養価が高くなり、市販の固形ブイヨンやコンソメに負けないくらい美味しいスープができます。骨にはカルシウムなどのミネラルがたくさん詰まっている上、軟骨から出るタンパク質が胃腸の粘膜を養うので、体調が優れない時には最適です。ただし、飲みたいと思った時にすぐにできるものではないので、忙しい方や一人暮らしの方は、一度にたくさん作って、小さめの容器に小分けにし、冷凍保存しておくことをお勧めします。
骨スープを飲む気も起きないくらい食欲が減退している時は、水に塩、レモン汁、少量の自然な甘味料(ハチミツ、メープルシロップ、黒砂糖など)を入れて飲んだり、リンゴをよく噛んで食べるのも良いでしょう。
食欲がある場合には、蒸したり、煮たりして火を通したものを中心に食べます。少し調子が良くなってきたら、焼いたものも食べて構いません。消化に負担をかけるもの(乳製品、小麦製品など)に加え、揚げものも避けるようにします。
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熱にしろ、鼻水にしろ、咳にしろ、感染の症状はどれもとても厄介ですが、感染による炎症反応は、病原菌を処理するために体が敢えて起こしている現象であり、無理やり薬で抑制することは、かえって感染を長引かせることにつながります。だいたいの感染は、体を上手くサポートすることさえできれば、外からのヘルプ無しに克服できます。私達の患者さんの中には、生活習慣を改め、体に良いことを始めると、数年ぶりに高熱が出たり体調を崩すケースが時々あります。これは、これまでまともに機能していなかった免疫細胞が、元気を取り戻したことによって起きる、いわば好転反応ともいえます。高熱を出せるということは免疫機能が健全である証でもあるのです。感染は、体が何か不要な物を処理して体外に出す、デトックスの手段の一つでもあるようです。実際、風邪をひいて薬無しで克服した後、かえって体がスッキリして、風邪をひく前よりも強くなったような感じがしたことはありませんか?
もちろん、免疫が完全に弱り切ってしまっている場合や、とても強い病原体性質の場合、早く対応しなければ負けてしまうこともあります。しかし、普段から免疫機能向上を心がけた生活をしていれば、そのようなことはごくごく稀なのです。何らかの感染や不調が起きて医療機関にかかった際、ドクターが英語でlet it run its courseという言い方をすることがあります。その自然の経過をたどればいずれ良くなる、というような意味で使われます。症状には、必要な物もあり、感染の全てが悪者というわけではありません。風邪を引いたり体調を崩した時には、症状をもみ消すことに躍起にならず、免疫機能の妨げになる物を取り除き、体が治ることができるような環境を整え、慌てずに落ち着いて体の様子を観察することが大切です。
今年もたくさんの方々の健康のサポートをさせていただくことができ、本当に感謝な一年でした。どうもありがとうございました。引き続き来年もどうぞ宜しくお願い致します。
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