top of page

Issue No. 31 (February 15, 2025) ポリオ

hiroizumidc

「ポリオ」と聞くと「足の麻痺」というイメージが強いですよね。しかし実は、ポリオウイルスは世界中で大昔から人間の腸内に存在するウイルスで、ポリオ感染症の75%はなんと無症状。発熱、喉の痛み、胃腸の不調など、風邪のような症状のみで収まるケースが24%で、残りの1%において激しい頭痛や首の硬直などの髄膜炎の症状が起きますが、免疫機能が正常に働いていれば、どちらにしろ1~2週間で自然に治ります。1%未満の確率で麻痺が起こり、下肢に影響が出る場合が多いのですが、稀に呼吸の筋肉が麻痺してしまうような酷い場合には死に至ることがあります。ポリオウイルスに対する特効薬はありません。


元々は赤ちゃんが発症する病気、という認識だったようですが、1800年代の終わり頃からいわゆる「小児麻痺」と呼ばれる子供の麻痺が多くみられるようになります。特にアメリカの大都市で大流行が発生し、1916年にニューヨーク市で大流行した時には致死率が25%にまで上ったと記録されています。その後も1950年代まで世界各地で流行が発生します。それを受け、まずは「不活化ワクチン」が開発され、紆余曲折はあったものの、それを乗り越えて後にもっと効果的な「生ワクチン」が開発され、そのお陰でポリオは世界の特定の地域を除いてほぼ絶滅した、というのが一般的に受け入れられている説です。


しかし実際には、このいわゆる教科書的な「ポリオの歴史」とは辻褄が合わないような事実がたくさんあります。まず、ポリオは人間と猿にしか感染しないことが今はわかっていますが、ポリオが最初に世間を騒がせ始めた1890年代には、鶏、馬、犬などの動物にも同じ現象が見られたというのです。また、麻痺だけではなく、てんかんや痙攣も多く見られたそうです。これは、ポリオによる典型的な症状ではありません。アメリカのルーズベルト大統領もポリオ感染症に罹患し、下半身が不自由であったことがよく知られていますが、これは恐らくポリオではなくギラン・バレー症候群であった可能性の方が高いこともわかっています。


では何が、世界を騒がせた「ポリオ感染症」の背景にあったのでしょうか?農薬や重金属が関係していたのではないか、という説が今注目を集めています。当時は農薬の害は全く知られてなかった時代なので、野菜や果物や乳牛にヒ素や鉛の農薬がたっぷりと撒かれていました。歯が生え始めの頃の赤ちゃんの歯茎に、水銀が入った薬が塗られていたこともあったそうです。DDTという農薬が開発されてからは、農家で使われたのはもちろん、飛行機や車にも散布され、世界大戦中には発疹チフスなどの感染症の予防にDDTが兵士の(服の上からですが)全身に直接撒かれたり、シラミ予防に髪の毛や髭にスプレーしたり、人がたくさんいるビーチで散布されたり、学校の給食に直接ふりまいたりと、今考えたらとんでもないようなことが、何のためらいもなく行われていました。ヒ素も、鉛も、DDTも、脳や神経に有害な作用を起こし、酷い場合には痙攣や麻痺などに繋がるので、当時の「ポリオ大流行」の直接的原因となっていた可能性は大です。また、DDTはポリオウイルスを活性化させることも後にわかっているので、そのような形で感染者増加に影響していた可能性も充分に考えられます。


そもそも、ポリオ感染症が大流行した1800年代の終わり〜第二次世界大戦後は、今のように病院に行ったら簡単に検査で診断がつく時代ではありません。ポリオウイルスの存在が実際に確認されたのは1909年であり、その後も長い間ポリオは症状だけを基準に診断されていたので、「ポリオ」と診断されたケースの数のうち、どれだけが本当にポリオだったのかは全くもって不明です。ポリオのような麻痺症状は、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、手足口病、梅毒、ギランバレー症候群、横断性脊髄炎、重金属中毒などでも起きるのです。古代エジプト時代の壁画に麻痺した人が描かれていることから、大昔からポリオはあった、と言われていますが、本当にその描かれた人の麻痺がポリオによるものだったのかは、誰にもわかりません。


では、ワクチンの効果はどうだったのか、これも実は不確かなのです。何故ならば、診断基準がワクチン接種開始前と開始後で大きく異なっているからです。ワクチン接種が始まる前は、一つの筋肉群の麻痺が24時間以上続いていることが確認されれば、どんな医者でもポリオと診断を付けることができました。ところがワクチン接種が始まった1955年以降は、60日以上(!)続く麻痺を、最低二人の専門医が確認し、他のウイルスや細菌によるものではなく明らかにポリオウイルスによるものである、と検査で断定されたケースのみに対して、正式にポリオと診断がつくようになりました。要するに、ワクチン接種開始以前は、恐らくポリオでなくても「ポリオ」とされていたケースもたくさんあったと思われますが、ワクチン接種開始以後は、本当にポリオウイルスによる麻痺だけに「ポリオ」と診断がつくようになったのです。なので、「ワクチンによる感染者数の減少」とされている数字がどれだけ正確かは実際にはわかりません。


とても興味深い話が一つあります。1916年にニューヨークで大流行した際、イタリアからの移民の子供達が新しい株を持ち込んだと一般的には信じられていたそうです。しかし、ニューヨークの最初のケースがブルックリンで診断された時は、イタリアからの移民が入ってくる前でした。では何が強毒化したポリオウイルス出現の原因だったのでしょうか。ニューヨークにはロッカフェラーの研究所がありますが、当時なんとそこでポリオウイルスの機能獲得実験が行われていたというのです。猿の脊髄を使い、強毒化したポリオウイルスを人為的に作っていたことが、実際きちんと文献に残っています。そこから漏れた可能性も充分にあるというわけです。


先日アメリカでは、JFKの甥にあたるRobert F. Kennedy Jr.が保健福祉省(日本の旧厚生省にあたる)の長官に就任しました。RFK Jr.が以前から就任した暁には「必ずワクチンの安全性と有効性を確かめ、子供のワクチン接種スケジュールを見直す」と公約していることに対し、多くの政治家はこぞって「RFK Jr.は反ワクチンの陰謀論者である」と彼を批判していますが、このような議論でよく語られるのが、ポリオワクチンの功績についてです。ポリオはワクチンのおかげでなくなった、ワクチンとは素晴らしいものだ、それを批判するなど反科学的で非人道的だ、というのが彼らの言い分です。しかし、今回この記事でお話したように、実際のポリオの歴史には、一般的には知られてこなかった様々な裏事情がありました。私達の記憶にまだ新しい新型コロナウイルスのパンデミックと被る部分もたくさんありますね。


次回はポリオワクチンに焦点を当ててお話します。




閲覧数:5回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comments


Copyright © Dr. Izumi, Mind, Body, Spirit. All Rights Reserved.

bottom of page